自らの魂を売り払うほどに自分を愛したという事実だけは、いつか伝わってくれればいいと思う - 本で出会った素敵な言葉 vol.0139
【投稿者】
40代 女性
【本で出会った素敵な言葉・好きな一節・感動した一文】
その後、私たちは父親の選んだ絵葉書を、おフウに届けた。おそらく彼女が父親の秘密を理解することは、しばらくは無理かもしれないが、自らの魂を売り払うほどに自分を愛したという事実だけは、いつか伝わってくれればいいと思う。
【タイトル・著者】
朱川 湊人「鏡の偽乙女 ─薄紅雪華紋様─」
【その言葉が好きな理由・感動した理由】
短編連作である物語の一編「畸談みれいじゃ」の一節です。 薬の行商人をしていた夫が旅先で死に、盲目の妻と幼い娘のために「みれいじゃ(亡霊のような存在)」になったというお話。 盲目の妻の記憶に残る「真っ赤な夕焼け」を引き換えにしてでも、この世に留まろうとする夫。 夫の未練は、とても真っ直ぐで純粋です。 たとえ人間の姿が失われたとしても、父親として、娘が欲しがっていた竹久夢二の絵葉書を買いに行こうとする姿に、涙が出ます。
【本の内容】
大正三年、東京。画家を志して家を飛び出した槇島功次郎は、雪の無縁坂で、容姿端麗な青年画家・穂村江雪華と出会う。風変わりだが聡明、ずば抜けた画才を持つ雪華は、この世に未練を残して死んだ者の魂を絵で成仏させる、驚くべき能力の持ち主だった。果たせぬ恋、罪深き業…死者たちの断ち切れぬ思いが、二人の周囲に不可思議な現象を巻き起こす。幻想と怪奇に満ちた、大正怪異事件帖。