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然し……然し君。恋は罪悪ですよ。解っていますか。 - 本で出会った素敵な言葉 vol.0113

 

【投稿者】

30代 女性

【本で出会った素敵な言葉・好きな一節・感動した一文】

然し……然し君。恋は罪悪ですよ。解っていますか。

 

【タイトル・著者】

夏目漱石「こころ」

 

【その言葉が好きな理由・感動した理由】

大学に入る少し前くらいから、所謂「名作」と言われる小説を意識して読むようになった。受験勉強などで題名やあらすじは学んで知っているが、ちゃんと読んだことは無い、という作品があまりにも多いな、とふと思ったことがきっかけだった。 上記の作品も、そんな中で手にした一冊だった。あまりにも有名すぎる作者、その代表作の一つとしても挙げられる小説。前評判が高すぎて、逆に何の先入観も無しに読み始めた。が。如何程も読み進めない内にぶちあたったこの一節に、心を持っていかれた。「然し……然し君。恋は罪悪ですよ。解っていますか。」主人公と「先生」が、出先で仲睦まじい男女を見かけ、恋について語り出したと思ったら、「先生」の口から出たのがこの台詞である。後々に判る「先生」の過去が、この台詞を言わせたのだが、この作品の世界を飛び越えて、私の中に「恋は罪悪である」というフレーズがしっかりと染み付いた。当時私は10代後半、勿論恋らしきものはいくつも経験していたが、恋とはそれでもまだ、「恋バナ」で語る程度のふわふわしたものに過ぎない、という認識しか無かった。しかし世の中を見てみれば、恋心を抑え切れないが故に起こる犯罪の何と多いことか。お互いが好きあって楽しい内はいいが、どちらかが冷めたり他に目移りしたりすると、恋心から独占欲や支配欲や猜疑心やアレやコレやの負の感情が生まれてくる。なるほど確かに、恋は罪悪かもしれない。解っていますか。と静かに問う先生の言葉も、同時にとても身に沁みた。自分もいつか、他の誰かのことを慮れないほど、恋の深みにはまることもあるかもしれない。「先生」のように、誰かを犠牲にしてまでも…。甘いものとしての認識しか無かった「恋」の恐ろしさを、初めて思い知らされた一節として、今でも忘れることができない。

【本の内容】

鎌倉の海岸で、学生だった私は一人の男性と出会った。不思議な魅力を持つその人は、“先生"と呼んで慕う私になかなか心を開いてくれず、謎のような言葉で惑わせる。やがてある日、私のもとに分厚い手紙が届いたとき、先生はもはやこの世の人ではなかった。遺された手紙から明らかになる先生の人生の悲劇――それは親友とともに一人の女性に恋をしたときから始まったのだった。