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少年はそこで、膝を抱えて座っていた。何もない田圃だった。カカシと向かい合っていた。自分が作り、立てたものだった。 - 本で出会った素敵な言葉 vol.0152

 

【投稿者】

20代 女性

【本で出会った素敵な言葉・好きな一節・感動した一文】

少年はそこで、膝を抱えて座っていた。何もない田圃だった。カカシと向かい合っていた。自分が作り、立てたものだった。少年は目を瞑っている。優午はまだ喋らないのだろうか、と待っていた。何度も呼んでみても返事はない。やはり、自分が作ったものでは駄目なのかもしれないな。その思いが、頭をよぎると、急激に不安に襲われた。祭りの最中に、夢中で踊っていたのは世界中で自分ひとりだったのだ、と急に我に返り、孤独感で凍えるのと似ていた。

 

【タイトル・著者】

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」

 

【その言葉が好きな理由・感動した理由】

長い年月を生き、時代の移り変わりや親しい人々や動物達の生き死にを見守り続けた喋る案山子の存在の大きさが分かる一節だと思います。島の人々との何気ない会話から相談や愚痴にこたえて来た誰からも頼られ親しまれていた島の特別な存在であった優午という案山子が死んでしまった事への悲しみと絶望ともに案山子の事が本当に大好きだったのだなという少年の気持ちがとても分かります。諦めなくてはいけない気持ちと諦め切れない気持ちが混ざりあっている様な感情に感動しました。

【本の内容】

既存のミステリーの枠にとらわれない大胆な発想で、読者を魅了する伊坂幸太郎のデビュー作。レイプという過酷な運命を背負う青年の姿を爽やかに描いた『重力ピエロ』や、特殊能力を持つ4人組の強盗団が活躍する『陽気なギャングが地球を回す』など、特異なキャラクターと奇想天外なストーリーを持ち味にしている著者であるが、その才能の原点ともいえるのが本書だ。事件の被害者は、なんと、人語を操るカカシなのである。

コンビニ強盗に失敗した伊藤は、警察に追われる途中で意識を失い、見知らぬ島で目を覚ます。仙台沖に浮かぶその島は150年もの間、外部との交流を持たない孤島だという。そこで人間たちに崇拝されているのは、言葉を話し、未来を予知するというカカシ「優午」だった。しかしある夜、何者かによって優午が「殺害」される。なぜカカシは、自分の死を予測できなかったのか。「オーデュボンの話を聞きなさい」という優午からの最後のメッセージを手掛かりに、伊藤は、その死の真相に迫っていく。

嘘つきの画家、体重300キロのウサギさん、島の規律として殺人を繰り返す男「桜」。不可思議な登場人物たちの住む島は、不条理に満ちた異様な世界だ。一方、そんな虚構に比するように、現実世界のまがまがしい存在感を放つのが、伊藤の行方を執拗に追う警察官、城山である。本書が、荒唐無稽な絵空事に陥らないのは、こうした虚構と現実とが絶妙なバランスを保持し、せめぎあっているからだ。本格ミステリーの仕掛けもふんだんに盛り込みながら、時に、善悪とは何かという命題をも忍ばせる著者の実力は、ミステリーの果てしない可能性を押し開くものである。(中島正敏)