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五十歳を過ぎてからいくらか元気になり、信州の山々を歩くようになった。一歩一歩、山の奥に分け入ると、からだが周囲の自然と同化してゆくような気がしてくる。「わたし」がかぎりなく希薄になり、木々の香や風がからだを通り抜けてゆく。腹が減る。おにぎりを喰う。また歩く。腹が減る。「わたし」はたったそれだけの者になる。 - 本で出会った素敵な言葉 vol.0140

 

【投稿者】

40代 男性

【本で出会った素敵な言葉・好きな一節・感動した一文】

五十歳を過ぎてからいくらか元気になり、信州の山々を歩くようになった。一歩一歩、山の奥に分け入ると、からだが周囲の自然と同化してゆくような気がしてくる。「わたし」がかぎりなく希薄になり、木々の香や風がからだを通り抜けてゆく。腹が減る。おにぎりを喰う。また歩く。腹が減る。「わたし」はたったそれだけの者になる。

 

【タイトル・著者】

南木佳士「生きのびるからだ (短編「ののさんがいる」より) 」

 

【その言葉が好きな理由・感動した理由】

人は日々自問自答しながら生きています。今日やること、明日やることの中で一つ一つを選択していきます。そしていつの間にか行き止まりのところに立っていたりします。そんな時思考するのではなく、ただ体の赴くままに日常をおくることが大切だと言っているように感じるのです。単純なことの繰り返しの中でしか人は生きられないのだよと語りかけてくれているように感じます。この文章は人間という生き物の在り方、生き方を提示してくれているように思えるのです。

【本の内容】

粛々と勤務医としての業務に従事し、休日は早朝から小説を書く。ときに山を歩き、自然にむかってからだを開く。一歩一歩、山の奥に分け入ると、自意識で凝り固まった「わたし」が木の香や風に溶けてゆく。「生きのびた」著者だからこその、読む者の身の内を温かく浸す、静穏ながら強靱な言葉の数々。滋味溢れるエッセイ33篇。