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ひとを嫌うということ:中島義道 - 私の人生に影響を与えた本 vol.0143

 

【投稿者】

40代 女性

【人生に影響を与えた理由】

自然にこれと言った理由もなく他人を好きになる事はありませんか?それとか、単に顔が好みとか仕草がいいとか、他者からみれば大した理由にもならないけど、私はあの人が好きというのもあるでしょう。では、なんの理由もなく嫌い、顔が嫌い、雰囲気が嫌いということもありませんか?もちろんこれは相手にとっては理不尽な理由の嫌悪でしょう。でも、大した理由もなく好きになる事が肯定されるならば、大した理由もなく嫌う事も肯定されていいのです。それが自然の心の営みなのです。他人を好きになる自分を肯定するように、嫌いになる自分も肯定しましょう。何も恥じる事はない。堂々と嫌いあってゆきましょう。という本書の趣旨に、目から鱗でかつ、妙に納得してしまいました。

【内容】

誰かを嫌いになること、誰かから嫌われることは、つらく、不快で、いけないことだと考えがちである。著者はそんな「常識」に疑問を投げかけ、日常的に人を嫌いになるということは、好きになることと同様にごく自然であり、「嫌い」としっかりと向き合うことが人生を豊かにしてくれると説く。 著者は、東大人文科学大学院、ウィーン大学哲学科を修了した哲学博士であり、ドイツ哲学、時間論、自我論が専攻の電気通信大学教授である。本書の土台となっているのは、著者自身が「これまでの長い人生において、むやみやたらに他人を嫌うことがあり」、妻と息子からは「ある日を境に激しく嫌われるハメに陥った」という切実な現実である。 本書では、「嫌い」を引き起こす原因として、相手が自分の期待にこたえてくれないこと、嫉妬、軽蔑、無関心、生理的な拒絶など、8つを挙げて解説している。著者自身も書きながら「私が嫌っている膨大な人々の顔が眼の前にブンブン蝿のように登場し、その迫力に押しつぶされそう」だったと「あとがき」で述べているが、読む方も、自分が今までに嫌ってきた人、嫌われてしまった体験などを次々と思い出し、その原因に改めて納得したり、せっかく忘れていたのに今さらまた思い出してしまったことへの不快感にさいなまれるかもしれない。しかし、「嫌い、嫌われる」という苦しい関係は、一面では「自分を反省させてくれ、警告を与えてくれ、まことに有益」と指摘されると、確かにそうだと溜飲が下がる。自分が誰をも嫌わず、誰からも嫌われずには生きてはいないという事実に、少なからず罪悪感を抱いている人は、一読してみてはどうだろう。(加藤亜沙)

 

【目次】

1 すべての人を好きにはなれない
2 「嫌い」の諸段階
3 「嫌い」の原因を探る
4 自己嫌悪
5 「嫌い」と人生の豊かさ