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次郎物語:下村湖人 - 私の人生に影響を与えた本 vol.0050

 

50代 男性

 

この本は、最近あまり世間では、名を聞かなくなりましたが、過去に何度か映画化されたこともある古典的な名作だと言えます。作者の自伝的小説でもあり、複雑な家庭環境に生まれた次郎が、実母の愛情を受けられず育ちながらも、おおらかな実父、愛に溢れる乳母との関係のなかで、逞しく成長していく物語です。決して暖かいと言えない家庭環境の中で、決してあきらめることなく、ふてくされることなく自分の人生を切り開いていく、次郎の力強さと自分の子供ではない次郎に対して時には捨て身の愛情を捧げることのできる次郎の乳母の愛情は何なんだろうと、読み返すたびに思います。この本は、特に子育て中であるお父さん、お母さんに読んでもらいたいと思います。きっと、得るものがある筈です。

 

 

(下村湖人について)

下村湖人は、一八八四年(明治十七年)に佐賀県に生まれました。小説家・社会教育家です。  東京帝国大学英文科卒。大学卒業後に母校佐賀中学校教師や鹿島中学校校長等を歴任し辞任後は、同郷で高校・大学同窓の田澤義鋪に従い、講演や文筆活動で社会教育に尽力しました。  一九三二年(昭和七年)から本格的な文筆活動に入り、一九三六年(昭和十一年)から代表作『次郎物語』の連載を雑誌「新風土」で開始します。一九四八年(昭和二十三年)には、復刊された雑誌「新風土」で『次郎物語』第四部の連載を開始しました。一九五四年(昭和二十九年)には『次郎物語』第五部を上梓しますが、このころから病床に伏すようになり、翌年春、脳軟化症と老衰のため七十歳で死去しました。下村湖人は『次郎物語』の第五部のあとに、少なくともあと二編の構想を暖めていたとみられることから、同作は未完に終った作品と考えられています。

 

(次郎物語について)

日本が持った初めての本格的な教養小説と言っていいでしょう。幼少期に里子に出された主人公本田次郎の成長を、青年期にかけて描いています。湖人自身の里子体験が反映されるなど、自伝的色彩が濃いものとなっています。  第一部から第三部では、家族や学校といった場所で社会性を身につけるに当たっての主人公の人間的成長が描かれています。第四部と第五部では、五・一五事件、二・二六事件など軍国主義的な時代を背景として、主人公の精神的恋愛が作品の重要な要素として描かれています。  第一、二、五部には「あとがき」が、第四部には「附記」があります。第二部のあとがきによれば、第一部は「教育と母性愛」、第二部は「自己開拓者としての少年次郎」がテーマであると述べられています。また、第五部のあとがきには、「戦争末期の次郎を第六部、終戦後数年たってからの次郎を第七部として描いてみたいと思っている」とあります。